Pythonは、データサイエンスやAI開発、Webアプリケーションのバックエンドなど、幅広い分野で活用されているプログラミング言語です。
しかし、システムを安定して運用し続けるためには、使用しているPythonのバージョンがいつまでサポートされるのか、定期的に確認する必要があります。
多くのソフトウェアには「LTS (長期サポート)」という概念がありますが、Pythonにおけるサポート体制はどのようになっているのでしょうか。
本記事では、Pythonのサポートサイクルや最新バージョンの期限、そしてプロジェクトに最適なバージョンの選び方を詳しく解説します。
PythonにおけるLTS(長期サポート)の考え方
プログラミング言語やオペレーティングシステムの中には、特定のバージョンを数年にわたってサポートする LTS (Long Term Support) という仕組みを導入しているものがあります。
例えば、UbuntuなどのLinuxディストリビューションや Node.js がその代表例です。
しかし、結論から述べると、Pythonには「LTS」という名称の公式バージョンは存在しません。
Pythonの開発コミュニティであるPSF (Python Software Foundation) は、特定のバージョンだけを特別長くサポートするのではなく、すべてのリリースに対して一貫したサポート期間を設ける方針をとっています。
かつては Python 2.7 が例外的に非常に長い期間サポートされましたが、これは Python 3 への移行を促進するための特殊な措置であり、現在の Python 3 系では標準的なリリースサイクルが確立されています。
PEP 602によるリリースサイクルの固定
現在のPythonは、PEP 602 という提案に基づいて、1年に1回のメジャーアップデートが行われるスケジュールになっています。
毎年10月に新しいマイナーバージョン (3.12、3.13など) がリリースされ、それぞれのバージョンには明確な有効期限が設定されています。
このリリースサイクルの固定により、開発者は「いつ次のバージョンが出るのか」「今使っているバージョンはいつまで安全に使えるのか」を正確に予測できるようになりました。
特定のLTSを待つのではなく、この5年間のサイクルを理解して、適切なタイミングでバージョンアップを計画することが重要です。
Pythonの各バージョンのサポート期間
Pythonの各マイナーバージョンは、リリースされてから 合計で約5年間 サポートされます。
この5年間は、大きく分けて2つのフェーズに分かれています。
1つ目は バグフィックス(Bugfix)期間 です。
リリースから約1年半の間は、プログラムの不具合や機能の改善など、広範囲な修正が行われます。
この期間中は、メンテナンスリリース (3.x.1, 3.x.2など) が頻繁に公開されます。
2つ目は セキュリティフィックス(Security Fix)期間 です。
バグフィックス期間が終了した後の約3年半は、重大な脆弱性が発見された場合のみ修正が行われるフェーズに入ります。
この期間は新しい機能の追加や一般的なバグの修正は行われませんが、サーバーサイドで運用するシステムにとっては、安全性を維持するための重要な期間となります。
以下に、現在および近年の主要なバージョンのサポートステータスをまとめます。
| バージョン | リリース日 | バグフィックス終了 | サポート終了 (EOL) | ステータス |
|---|---|---|---|---|
| Python 3.13 | 2024年10月 | 2026年4月 | 2029年10月 | 最新の安定版 |
| Python 3.12 | 2023年10月 | 2025年4月 | 2028年10月 | 安定版 (推奨) |
| Python 3.11 | 2022年10月 | 2024年4月 | 2027年10月 | セキュリティ修正のみ |
| Python 3.10 | 2021年10月 | 2023年5月 | 2026年10月 | セキュリティ修正のみ |
| Python 3.9 | 2020年10月 | 2022年5月 | 2025年10月 | セキュリティ修正のみ |
| Python 3.8 | 2019年10月 | 2021年5月 | 2024年10月 | サポート終了 (EOL) |
すでに Python 3.8 以前のバージョンは EOL (End of Life) を迎えており、セキュリティパッチの提供が完全に停止しています。
これらのバージョンを使い続けることは、システムを脆弱性にさらすリスクがあるため、速やかな移行が必要です。
推奨されるバージョンの選び方
新しいプロジェクトを開始する際や、既存システムの移行を検討する際、どのバージョンを選ぶべきかは非常に重要な判断基準となります。
PythonにLTSがない以上、以下の3つの観点から選定することをお勧めします。
1. 安定性を重視する場合(Python 3.12)
企業の基幹システムや、長期間メンテナンスを最小限に抑えたいプロジェクトでは、最新の一つ前のバージョン(現在は Python 3.12) を選択するのが最も一般的です。
最新バージョン(3.13)がリリースされた直後は、サードパーティ製のライブラリ(NumPy, Pandas, TensorFlowなど)がまだ新しいバージョンに完全に対応していない場合があります。
一方で、一つ前のバージョンであれば、主要なライブラリの互換性が確保されており、かつバグフィックス期間も残っているため、非常にバランスが良い選択となります。
2. パフォーマンスと最新機能を追求する場合(Python 3.13)
Python 3.13 では、大幅なパフォーマンス向上が図られています。
特に注目すべきは、「フリースレッドPython (GILの無効化)」 への実験的な対応や、新しい JIT (Just-In-Time) コンパイラ の導入です。
マルチスレッド処理での性能向上を期待する場合や、最新の構文を利用して開発効率を高めたい場合は、迷わず最新の Python 3.13 を選択しましょう。
ただし、前述の通り一部の C言語拡張を利用しているライブラリが動作しない可能性があるため、事前の検証が必要です。
3. セキュリティ保守フェーズのバージョン(Python 3.11以前)
既に稼働中のシステムが Python 3.11 や 3.10 で動いている場合、すぐにバージョンアップを行う必要はありません。
これらは セキュリティフィックス期間 内にあるため、OSのパッケージマネージャー経由などで適切にアップデートを適用していれば安全に利用できます。
ただし、バグフィックス期間が終了しているため、言語自体の細かな不具合に遭遇しても修正されることはありません。
また、外部ライブラリ側が古いPythonバージョンのサポートを順次打ち切っていくため、依存関係の更新が難しくなるというデメリットがあります。
Pythonのバージョンを確認する方法
現在使用している環境のPythonバージョンを確認するには、コマンドラインやPythonスクリプトを使用します。
開発環境の整合性を保つためにも、こまめに確認する習慣をつけましょう。
コマンドラインでの確認
ターミナルやコマンドプロンプトで以下のコマンドを実行します。
# バージョン情報の表示
python --version
# または
python3 --version
Pythonスクリプト内での詳細確認
プログラム内で、実行環境のバージョン情報を詳細に取得することも可能です。
以下のコードは、システム情報を取得する sys モジュールを使用した例です。
import sys
# バージョン情報を文字列で取得
version_info = sys.version
print(f"Python Version (String): {version_info}")
# バージョンをタプル形式で取得(条件分岐に便利)
version_tuple = sys.version_info
print(f"Major: {version_tuple.major}")
print(f"Minor: {version_tuple.minor}")
print(f"Micro: {version_tuple.micro}")
# 特定のバージョン以上であることをチェックする例
if sys.version_info >= (3, 12):
print("この環境は Python 3.12 以上の推奨環境です。")
else:
print("バージョンが古いため、アップデートを検討してください。")
実行結果は以下のようになります(環境によって異なります)。
Python Version (String): 3.13.0 (main, Oct 7 2024, 05:02:14) [Clang 15.0.0 (clang-1500.3.9.4)]
Major: 3
Minor: 13
Micro: 0
この環境は Python 3.12 以上の推奨環境です。
バージョン管理を容易にするためのツール
PythonのLTSが存在しない代わりに、私たちは複数のバージョンを効率的に切り替え、管理する術を身につける必要があります。
手動でインストールとアンインストールを繰り返すと、システムの標準Pythonを壊してしまう恐れがあるため、以下のツールの活用を強く推奨します。
pyenv
pyenv は、同一マシン上に複数のPythonバージョンをインストールし、プロジェクトごとに切り替えることができるツールです。
「プロジェクトAでは 3.10 を使い、新しく始めるプロジェクトBでは 3.13 を使う」といった運用が非常にスムーズになります。
venv (仮想環境)
Python標準の venv モジュールを使用すると、プロジェクトごとに独立したライブラリ実行環境を作成できます。
これにより、特定のプロジェクトで古いライブラリが必要な場合でも、システム全体に影響を与えることなく安全に管理できます。
Docker
商用環境やチーム開発においては、Docker を使用して実行環境をコンテナ化するのが一般的です。
Dockerfile で python:3.12-slim のようにベースイメージを指定することで、開発・テスト・本番のすべての環境で全く同じPythonバージョンを使用することを保証できます。
EOL(サポート終了)バージョンのリスク
サポートが終了したバージョン(現在は 3.8 以前)を使い続けることには、無視できないリスクが伴います。
- セキュリティ脆弱性の放置:
OSレベルで脆弱性が見つかっても、Python本体の修正プログラムが配布されません。悪意のある攻撃者が既知の脆弱性を利用してシステムに侵入する隙を与えてしまいます。 - 最新ライブラリの非対応:
人気の高いライブラリ(PandasやScikit-learnなど)は、新しい機能を活用するために古いPythonのサポートを積極的に打ち切ります。その結果、バグ修正やパフォーマンス改善が含まれた最新のライブラリがインストールできなくなります。 - 開発コストの増大:
古いバージョン特有のバグや制約を回避するために、標準的ではないコードを書く必要が生じ、コードの可読性や保守性が低下します。
「動いているから大丈夫」という考えは、長期的な運用においては最大のエンジニアリングリスクとなります。
サポート期限の少なくとも1年前には、移行計画を立て始めるのが理想的です。
まとめ
Pythonには、他のソフトウェアで見られるような10年単位の「LTS」は存在しません。
しかし、「毎年1回リリース、5年間のサポート」 という明確なサイクルが確立されており、予測可能性は非常に高いと言えます。
本記事のポイントを振り返ると以下の通りです。
- Pythonの各バージョンは、バグフィックス(1.5年)とセキュリティフィックス(3.5年)の計5年間サポートされる。
- Python 3.13 が最新の安定版であり、高いパフォーマンスを求める場合に最適。
- 一般的なプロジェクトには、ライブラリの互換性が高い Python 3.12 が推奨される。
- Python 3.8 以前はすでにサポートが終了しているため、速やかな移行が必要。
Pythonのバージョン管理は、システムの健康状態を保つための「定期検診」のようなものです。
定期的に公式サイトや sys.version を確認し、常に安全で快適な開発環境を維持しましょう。






