Pythonのパッケージ管理や環境構築は、長年多くのエンジニアを悩ませてきた課題です。

pipvenvpyenvpoetrypipenvcondaなど、用途や好みに応じて多数のツールが存在し、プロジェクトごとに管理手法が異なることも珍しくありません。

こうした「複雑化しすぎたPythonエコシステム」に終止符を打ち、たった一つのツールでPythonのインストールから依存関係の解決、仮想環境の構築までを完結させることを目指して開発されたのがRyeです。

Ryeは、Flaskの生みの親として知られるArmin Ronacher氏によって開発がスタートし、現在は高性能なPythonリンターRuffを手掛けるAstral社によってメンテナンスされています。

本記事では、この次世代管理ツールRyeの導入メリットや基本的な使い方、そして混同されやすいuvとの違いについて、プロの視点から徹底的に解説します。

Python管理ツール「Rye」とは何か

Ryeは、Rust言語で記述されたPythonのオールインワン管理ツールです。

その設計思想は「One-Stop Shop」であり、開発者がPythonプロジェクトを開始する際に必要なすべての工程をRyeだけでカバーすることを目標としています。

従来の管理手法では、まずpyenvでPythonのバージョンをインストールし、次にvenvで仮想環境を作り、さらにpippoetryでライブラリを管理するといった、複数のツールを組み合わせる必要がありました。

しかし、Ryeを導入すれば、Python本体のダウンロードから依存関係の管理までを一つのコマンド体系で実行可能になります。

Ryeが登場した背景

Pythonのパッケージ管理には、歴史的に「標準化」と「利便性」の乖離という問題がありました。

pipはシンプルですがプロジェクトごとの分離が弱く、Poetryは強力ですがPython本体の管理までは行えません。

また、これらツールの多くはPython自体で記述されているため、ツールの実行速度や、ツール自体が依存するPython環境の管理という「鶏と卵」のような問題も抱えていました。

RyeはRustで構築されているため、Pythonがインストールされていない環境からでも動作し、極めて高速に動作するという特徴を持っています。

これにより、環境構築にかかる時間を劇的に短縮し、開発者が本質的なコード記述に集中できる環境を提供しています。

Ryeを導入する主なメリット

Ryeを採用することで、開発ワークフローはどのように改善されるのでしょうか。

主なメリットを3つの観点から整理します。

1. Pythonのバージョン管理が驚くほど簡単になる

Ryeは、自身でPythonバイナリを管理する機能を備えています。

プロジェクトのルートディレクトリで特定のバージョンを指定するだけで、Ryeが必要なバイナリを自動的にダウンロードし、そのプロジェクト専用の環境に紐付けます。

システム全体のPython環境を汚染することなく、プロジェクトごとに最適な実行環境を維持できるのは大きな利点です。

2. 圧倒的な実行速度

Ryeの内部エンジンには、現在世界最速レベルのパッケージインストーラーであるuvが採用されています(後述)。

これにより、数千の依存関係を持つ大規模なプロジェクトであっても、パッケージのインストールや同期が数秒で完了します。

従来のpippoetryで感じていた待機時間のストレスから解放されます。

3. PEP規格に準拠した標準的な構成

Ryeは、Pythonのパッケージングに関する標準規格(PEP 517、PEP 621など)に厳格に従っています。

設定ファイルとしてpyproject.tomlを使用するため、Rye特有の独自形式に縛られるリスクが低く、将来的に他のツールへ移行する場合や、他の開発者が異なるツールを使っている場合でも互換性を保ちやすくなっています。

Ryeとuvの違いと関係性

Ryeについて調べていると、必ずと言っていいほどuvというツールの名前が登場します。

どちらもAstral社が関わっており、機能も似ているため、どちらを使うべきか迷う方が多いでしょう。

ここで両者の違いを明確にしておきます。

項目Ryeuv
役割高レベルなプロジェクト管理ツール超高速な低レベルパッケージ操作ツール
設計思想ユーザー体験(UX)重視のオールインワン速度とパフォーマンス重視のエンジン
Python管理自動ダウンロード・管理機能ありバージョン管理機能も追加された(進化中)
現在の立ち位置実験的から安定期へ(uvを内部で使用)Pythonエコシステムの新しい標準エンジン候補

結論から言えば、現在のRyeは「uvをエンジンとして利用するフロントエンド」という関係にあります。

もともとRyeは独立したツールとして開発されましたが、Astral社がプロジェクトを引き継いだ際、内部の重い処理(パッケージ解決やインストール)を自社開発の高速ツールであるuvに置き換えました。

そのため、「Ryeの使いやすさ」と「uvの速さ」の両方を享受できるのが現在のRyeです。

一方、uv単体でもプロジェクト管理機能(uv inituv lockなど)が急速に整備されており、将来的に両者は統合されるか、uvがRyeを包含する形になると予想されています。

現時点では、より完成されたワークフローや「ツール任せ」の利便性を求めるならRye、シンプルさと極限のスピードを求めるならuvを選ぶのが一般的です。

Ryeのインストールと初期設定

それでは、実際にRyeを導入する手順を解説します。

RyeはOSを問わず利用可能ですが、インストール方法が若干異なります。

macOS / Linuxの場合

ターミナルを開き、以下のスクリプトを実行します。

Shell
# Ryeのインストールスクリプトを実行
curl -sSf https://rye.astral.sh/get | bash

# パスを通す(インストール後の指示に従ってください)
source "$HOME/.rye/env"

Windowsの場合

公式サイト(rye.astral.sh)からインストーラー(.exeファイル)をダウンロードして実行するか、PowerShellで以下のコマンドを実行します。

PowerShell
# PowerShellでのインストール
powershell -c "iwr https://rye.astral.sh/get | iex"

インストールの確認

インストールが完了したら、バージョンを確認して正しく認識されているかチェックします。

Shell
rye --version
実行結果
rye 0.39.0
commit: 0.39.0 (2024-05-xx)
platform: macos (aarch64)

Ryeを使ったプロジェクトの基本操作

Ryeを使ってPythonプロジェクトを構築する際の一連の流れを、具体的なコードを交えて説明します。

1. プロジェクトの初期化

新しいディレクトリを作成し、Ryeでプロジェクトを初期化します。

Shell
# プロジェクトディレクトリの作成
mkdir my-python-app
cd my-python-app

# プロジェクトの初期化
rye init
実行結果
success: Initialized project in /path/to/my-python-app
  Run `rye sync` to get started

このコマンドを実行すると、pyproject.tomlやソースコードの雛形が自動生成されます。

2. 使用するPythonバージョンの指定

プロジェクトで使用するPythonのバージョンを指定(ピン留め)します。

システムにそのバージョンがなくても、Ryeが自動で用意します。

Shell
# Python 3.12を使用するように設定
rye pin 3.12

3. ライブラリの追加

プロジェクトに必要なライブラリを追加します。

ここでは例として、データ解析ライブラリのpandasと、HTTPクライアントのrequestsを追加してみます。

Shell
# ライブラリの追加
rye add pandas requests

この段階ではまだインストールは行われず、pyproject.tomlに依存関係が追記されるだけです。

4. 環境の同期(インストール)

設定した内容を実際の仮想環境に反映させるには、rye syncコマンドを使用します。

Shell
# 依存関係を解決し、仮想環境を構築する
rye sync
実行結果
Initializing new virtualenv in /path/to/my-python-app/.venv
Python version: cpython@3.12.x
Selected virtualenv python: /path/to/my-python-app/.venv/bin/python
Installing dependencies...
Resolved 15 packages in 120ms
Downloaded 15 packages in 850ms
Installed 15 packages in 35ms
Done!

驚くべきは、ライブラリの解決とインストールがミリ秒〜秒単位で完了することです。

内部でuvが動作しているため、キャッシュを有効活用し、並列で処理が行われます。

5. プログラムの実行

Ryeが作成した仮想環境(.venv)内でプログラムを実行するには、rye runを使用します。

Python
# main.py の内容
import pandas as pd

def main():
    df = pd.DataFrame({"A": [1, 2], "B": [3, 4]})
    print("--- Pandas DataFrame ---")
    print(df)

if __name__ == "__main__":
    main()

上記のプログラムを実行します。

Shell
rye run python main.py
実行結果
--- Pandas DataFrame ---
   A  B
0  1  3
1  2  4

実践的な活用:開発用依存関係とスクリプト管理

プロジェクトを開発する上では、実行時には不要だが開発(テストやリント)に必要なツールがあります。

また、頻繁に使うコマンドを短縮したい場合もあります。

開発用パッケージの管理

テストツールのpytestなどは、--devフラグを付けて追加します。

Shell
rye add --dev pytest black ruff
rye sync

これにより、pyproject.toml内のdev-dependenciesセクションに分類され、本番環境へのデプロイ時には除外するといった運用が可能になります。

カスタムスクリプトの設定

pyproject.tomlに独自コマンドを定義することで、複雑なコマンドを簡略化できます。

TOML
# pyproject.toml に追記
[tool.rye.scripts]
test = "pytest tests/"
lint = "ruff check ."
format = "black ."
server = "python src/manage.py runserver"

設定後、以下の形式で実行可能です。

Shell
rye run test
rye run lint

これにより、プロジェクトごとに共通の実行コマンドをチーム全員で共有できるため、開発効率が大幅に向上します。

Ryeを使いこなすための便利な機能

Ryeには、日常的な開発をさらに便利にする高度な機能がいくつか備わっています。

グローバルツールのインストール

プロジェクトに関係なく、システム全体で使いたいツール(例:HTTPie, Black, Ruffなど)を管理する機能です。

これはpipxに相当する機能です。

Shell
# ruffをグローバルにインストール
rye install ruff

# どこからでも実行可能
ruff --version

複数のPythonバージョンの共存

Ryeは、利用可能なPythonツールチェーンを一覧表示し、必要に応じて取得できます。

Shell
# 利用可能なツールチェーンの表示
rye toolchain list --include-downloadable

# 特定のバージョンをあらかじめダウンロード
rye toolchain fetch 3.11

ロックファイルの自動生成

Ryeはrye sync時に、requirements.lockおよびrequirements-dev.lockというロックファイルを生成します。

これには、推移的な依存関係(ライブラリが依存している別のライブラリ)を含めた全パッケージの正確なバージョンが記録されます。

これをGitで管理することで、「自分の環境では動くが、他の人の環境では動かない」という問題を完全に排除できます。

Rye導入時の注意点と運用Tips

非常に強力なRyeですが、導入にあたって知っておくべき注意点もあります。

1. .venv ディレクトリの扱い

Ryeはプロジェクト直下に.venvディレクトリを作成します。

これをGitの管理対象に含めてはいけません。

rye init実行時に自動的に.gitignoreが作成されますが、既存のプロジェクトに導入する場合は手動で設定を確認してください。

2. shim(シム)の仕組み

Ryeはpythonpipといったコマンドを、Ryeが管理する「shim」というプロキシ経由で実行させます。

シェルを再起動したり、パスの設定が正しくなかったりすると、意図しないシステムのPythonが呼ばれてしまうことがあります。

環境構築後は必ずwhich pythonコマンドなどで、Ryeのshim(通常は~/.rye/shims/python)を指しているか確認しましょう。

3. 他の管理ツールとの競合

すでにpyenvcondaがインストールされている環境でもRyeは動作しますが、シェルの初期化順序によっては競合が発生することがあります。

可能であれば、Pythonの管理はRyeに一本化するのが、トラブルを避けるための最もシンプルな解決策です。

Rye、uv、Poetryのどれを選ぶべきか?

最後に、現在主流のツールとの比較をまとめます。

ツールおすすめの対象者
Rye迷ったらこれ。 Pythonのインストールから全てを一つのツールで完結させたい人。UX重視。
uv最新技術を追いたい人。とにかく1秒でも早くインストールを終わらせたい人。CI/CDの高速化。
Poetry既に広く普及しているツールを使いたい人。複雑なパッケージ公開フローが必要な人。
Condaデータサイエンス分野で、非Pythonの依存関係(Fortran, C++等)が非常に多い人。

Ryeは、「標準的で、高速で、全てをお任せできる」という、現在のPython開発におけるベストバランスを実現しているツールと言えます。

まとめ

Ryeは、これまで断片化されていたPythonの環境構築手法を一元化し、開発者に最高の体験をもたらす新時代の管理ツールです。

Rustによる圧倒的なパフォーマンスと、Astral社による強力なメンテナンス体制により、今後さらに普及していくことは間違いありません。

本記事で紹介したように、rye initから始まり、rye pinrye addrye syncという一連の流れを覚えるだけで、モダンなPython開発環境は完成します。

特に、内部エンジンとしてuvが統合されたことで、速度面での不満も解消されました。

これまで「Pythonの環境構築は面倒だ」と感じていた方は、ぜひこの機会にRyeを導入し、その快適さを体感してみてください。

一度Ryeのスピードとシンプルさに慣れてしまうと、従来の管理手法に戻ることは難しくなるでしょう。