C言語を用いた開発において、膨大な数値を扱う必要性は多々あります。
特に現代のアプリケーションでは、大規模なデータのカウント、高精度のタイムスタンプ、金融計算、物理シミュレーションなど、標準的なint型では到底収まりきらない数値を扱う場面が増えています。
こうしたニーズに応えるために導入されたのがlong long型です。
この記事では、C言語におけるlong long型の定義やメモリサイズ、扱える値の範囲といった基本事項から、入出力に欠かせない書式指定子、リテラルの書き方、さらには実務で陥りやすい注意点までを網羅的に解説します。
プログラミングの精度を高め、バグの少ないコードを書くための知識を深めていきましょう。
long long型の基本概念
C言語におけるlong long型は、C99規格(1999年に策定されたC言語の標準規格)で正式に導入された整数型です。
それ以前のC89規格では、最も大きな整数型はlong型でしたが、近年のコンピューティング環境の進化に伴い、より大きな数値を扱う必要が生じたため、少なくとも64ビットの幅を持つ整数型として定義されました。
現代の多くのコンパイラ(GCC、Clang、MSVCなど)において、long long型は正確に64ビットのメモリ領域を占有します。
これにより、32ビットの整数型では表現できなかった「21億」を超える巨大な数値を正確に保持することが可能となりました。
符号ありのlong longと、符号なしのunsigned long longの2種類が存在し、用途に応じて使い分けるのが一般的です。
サイズと値の範囲
long long型を正しく扱うためには、そのデータサイズと表現可能な限界値を把握しておくことが不可欠です。
C言語の標準仕様では、各型のサイズは「最低限これ以上」という定義になっており、プラットフォームによって異なる場合がありますが、long longについては実質的に64ビットが標準となっています。
メモリサイズ
ほとんどの現代的な開発環境において、long long型のサイズは以下の通りです。
| 型名 | ビット数 | バイト数 |
|---|---|---|
| long long | 64ビット | 8バイト |
| unsigned long long | 64ビット | 8バイト |
sizeof演算子を使用することで、プログラムの実行環境における正確なバイト数を確認できます。
sizeof(long long)を実行すると、多くの場合で「8」という結果が返されます。
値の範囲
64ビットのメモリ領域を持つということは、2の64乗通りの状態を表現できることを意味します。
具体的な範囲は以下の通りです。
- long long (符号あり)最小値: -9,223,372,036,854,775,808 (-2の63乗)
最大値: 9,223,372,036,854,775,807 (2の63乗 – 1) - unsigned long long (符号なし)最小値: 0
最大値: 18,446,744,073,709,551,615 (2の64乗 – 1)
この数値は非常に巨大で、たとえば世界の人口(約80億)や、地球から太陽までの距離をミリメートル単位で計測したとしても、十分に収まる範囲です。
これらの定数は、標準ライブラリのlimits.hヘッダーにおいて、LLONG_MIN、LLONG_MAX、ULLONG_MAXとして定義されています。
書式指定子の使い方
printf関数で画面に出力したり、scanf関数でキーボードから入力を受け取ったりする際には、正しい書式指定子を使用しなければなりません。
間違った指定子を使用すると、メモリの読み取り範囲が狂い、異常な値が出力されたり、プログラムがクラッシュしたりする原因になります。
printf関数での出力
long long型を出力する場合、%d(int用)や%ld(long用)ではなく、%lldを使用します。
- %lld:符号あり
long longを10進数で表示 - %llu:符号なし
unsigned long longを10進数で表示 - %llx:符号なし
unsigned long longを16進数で表示
使用例:
long long large_value = 123456789012345LL;
printf("値は: %lld\n", large_value);
scanf関数での入力
入力の際も同様に、long longであることをコンパイラに伝える必要があります。
long long input_val;
scanf("%lld", &input_val);
ここで注意したいのは、一部の古いWindows環境(MinGWの古いバージョンなど)では、%lldが正しく動作せず、代わりに%I64dという独自の指定子を必要とするケースがありました。
しかし、現在のGCCやモダンな開発環境であれば、標準の%lldで問題なく動作します。
リテラルの表記方法
ソースコード内に直接巨大な数値を記述する場合、単に「10000000000」と書くだけでは不十分な場合があります。
C言語のコンパイラは、数値リテラルをデフォルトでint型として解釈しようとするためです。
接尾辞の付与
int型の範囲を超える数値をリテラルとして記述する際は、接尾辞(サフィックス)を明示的に付けることが推奨されます。
- LL:
long long型であることを示す(例:100LL) - ULL:
unsigned long long型であることを示す(例:100ULL)
小文字のllも使用可能ですが、数字の「1」と見間違えやすいため、大文字のLLを使用するのがベストプラクティスです。
なぜ接尾辞が必要なのか
例えば、以下のようなコードを考えてみましょう。
long long val = 2147483648; // intの最大値 2147483647 を超えている
接尾辞がない場合、コンパイラはまず「2147483648」をintとして処理しようとします。
しかし、この値はint(通常32ビット)の範囲を超えているため、コンパイル警告が発生したり、意図しない型変換が行われたりするリスクがあります。
最初から2147483648LLと記述することで、定数そのものを64ビットとして安全に扱うことができます。
実践的なコード例
ここでは、long long型を使用した具体的なプログラム例を紹介します。
階乗の計算のように、計算結果が急速に巨大化する処理では、long longの利用が不可欠です。
#include <stdio.h>
int main() {
// 20の階乗を計算する(intでは到底収まらない)
long long factorial = 1;
int n = 20;
for (int i = 1; i <= n; i++) {
factorial *= i;
}
printf("%dの階乗は %lld です。\n", n, factorial);
// サイズの確認
printf("long long型のサイズ: %zu バイト\n", sizeof(long long));
return 0;
}
このプログラムを実行すると、20の階乗である「2432902008176640000」という巨大な数値が正しく表示されます。
もしfactorial変数をint型にしていた場合、オーバーフローが発生し、全くデタラメな数値(あるいは負の数)が表示されることになります。
long long型を使用する際の注意点
非常に便利なlong long型ですが、使用にあたってはいくつかの重要な注意点があります。
これらを理解していないと、見つけにくいバグの原因となります。
オーバーフローの危険性
long long型は非常に広い範囲を持っていますが、無限ではありません。
例えば、LLONG_MAXに対してさらに加算を行うと、オーバーフローが発生し、値が最小値付近までラップアラウンド(符号あり整数の場合は未定義動作に近い挙動)してしまいます。
特に累乗や階乗の計算、あるいは再帰的な処理を行う場合、64ビットの壁すらも簡単に超えてしまうことがあります。
計算結果が9e18(900京)を超える可能性がある場合は、多倍長整数ライブラリ(GMPなど)の導入を検討する必要があります。
演算時の暗黙の型変換
C言語には「通常の算術型変換」というルールがあります。
異なる型同士で演算を行った場合、より大きな範囲を持つ型に合わせられるというルールです。
int a = 1000000;
int b = 2000000;
long long c = a * b; // 危険!
一見、結果をlong longで受け取っているので正しく見えますが、実は計算自体はint型で行われます。
a * bの結果がintの範囲を超えた時点でオーバーフローが発生し、その「壊れた結果」がlong longに代入されてしまいます。
正しくは、以下のようにキャストを行うか、リテラルに工夫を凝らす必要があります。
long long c = (long long)a * b; // 片方をキャストすれば、演算全体がlong longで行われる
メモリ消費とパフォーマンス
32ビットCPUなどの古いアーキテクチャや、極端にリソースの限られたマイコン(組み込み環境)でlong longを使用する場合、パフォーマンスに影響が出ることがあります。
64ビット命令をネイティブで持たないCPUでは、ひとつのlong longの加算を行うために、複数の32ビットレジスタを組み合わせた複雑な処理をソフトウェア側でエミュレートする必要があるためです。
大量のデータを扱う配列などで、どうしても64ビットが必要な場所以外では、適切にintやshortを使い分けることが、メモリ節約と速度向上の鍵となります。
stdint.h によるポータビリティの向上
C言語で堅牢なプログラムを書くためには、long longという名前の代わりに、stdint.hヘッダーで定義されている固定幅整数型を使用するのが現代的な流儀です。
int64_t と uint64_t
long longは「少なくとも64ビット」とされていますが、int64_tは「正確に64ビット」であることを保証します。
- int64_t:符号あり64ビット整数
- uint64_t:符号なし64ビット整数
#include <stdint.h>
int64_t my_val = 100LL;
このように記述することで、将来的に異なるコンパイラや異なるCPUアーキテクチャへ移植(ポーティング)する際、型のサイズ違いによるトラブルを未然に防ぐことができます。
PRI64d マクロの使用
int64_tを使用する場合、printfの書式指定子もプラットフォーム依存を避けるためにinttypes.hのマクロを使うことが推奨されます。
#include <inttypes.h>
printf("値は %" PRId64 " です。\n", my_val);
これは少し特殊な書き方に見えますが、内部的には"lld"などの文字列に展開されます。
移植性の高いコードを目指すなら、この手法に慣れておくと良いでしょう。
long型との違いと使い分け
初心者にとって混乱しやすいのが、long型とlong long型の違いです。
これらは「どちらがどれくらいのサイズか」が、OSやコンパイラのデータモデル(LP64やLLP64など)に依存します。
データモデルによるサイズの違い
| OS/環境 | long のサイズ | long long のサイズ |
|---|---|---|
| Windows (32/64bit共通) | 32ビット | 64ビット |
| Linux/macOS (64bit) | 64ビット | 64ビット |
| Linux/macOS (32bit) | 32ビット | 64ビット |
上記のように、Windows環境ではlongは常に32ビットですが、64ビット版Linuxではlongとlong longが同じ64ビットになります。
「どんな環境でも確実に64ビット以上の幅を確保したい」という場合は、longではなくlong longを明示的に選択するのが最も安全な選択肢です。
long long型の活用シーン
具体的にどのような場面でlong longが活躍するのか、いくつかのユースケースを見てみましょう。
1. Unixタイムスタンプ(ミリ秒精度)
通常のUnixタイムスタンプ(1970年1月1日からの経過秒数)は、かつて32ビットのtime_t(int相当)で管理されていましたが、2038年に限界を迎える「2038年問題」が知られています。
また、ミリ秒単位で時間を扱う場合、1秒を1000倍するため、32ビットではわずか24日程度で溢れてしまいます。
long long current_millis = 1715000000000LL; // ミリ秒単位の時刻
このような高精度な時間管理には、long longが必須となります。
2. ファイルサイズやディスク容量
現代のストレージ容量はテラバイト(TB)級に達しています。
1TBは約1兆バイトであり、これは32ビット整数の上限(約21億)を遥かに超えています。
long long file_size = 4500000000LL; // 4.5GBのファイルサイズを保持
OSのAPIを通じてファイルサイズを取得する際、戻り値の型としてlong long(あるいはそれと同等のoff_tなど)が使われます。
3. 金融・経済データの計算
国家予算や企業の売上高、暗号資産の流通量など、大きな桁の通貨単位を扱う際にも利用されます。
浮動小数点数(doubleなど)を使うと丸め誤差が発生する可能性があるため、最小単位(円やセントなど)を整数として保持し、long longで正確に計算する手法が一般的です。
まとめ
C言語のlong long型は、現代のプログラミングにおいて巨大な整数を安全かつ正確に扱うための強力な武器です。
C99規格以降の標準的な型として、多くのプラットフォームで64ビットのメモリサイズを提供し、±900京という広大な範囲の数値を表現できます。
扱う際のポイントを改めて整理しましょう。
- 入出力には%lldや%lluの書式指定子を使用する。
- リテラルを記述する際は、末尾にLLやULLを付与して型を明示する。
- 計算時のオーバーフローや、
int型からの暗黙の型変換によるミスに注意する。 - 移植性を重視する場合は
stdint.hのint64_tなどの利用を検討する。
データサイズが大きくなる現代のソフトウェア開発において、long longを正しく使いこなすことは、エンジニアとしての基礎体力を高めることに繋がります。
適切な型選択を行い、バグのない堅牢なシステムを構築していきましょう。






